長崎大学 研究開発推進機構FFGアントレプレナーシップセンター(NFEC)センター長 山下 淳司氏
略歴
平成7年東京経済大学卒業後、同年株式会社十八銀行入行。支店勤務後、2度の長崎県上海事務所および株式会社濱田屋商店の出向などを経て、令和元年十八銀行海外ビジネスサポート室長。平成25年長崎大学大学院経済学研究科修了。令和2年10月長崎大学FFGアントレプレナーシップセンターの開設とともに長崎大学に着任。センターのミッションである大学発ベンチャー創出支援およびアントレプレナー人材の育成を実践中。
平成13年~15年と22年~25年の合計4年7か月、長崎県上海事務所に出向し、県内企業の海外展開支援や中国人観光客誘致の仕事を行いました。
長崎は生まれた場所でありながら、実はそれほどの思い入れはなかったのですが、長崎県上海事務所の「中国人に対して長崎をPRする」というミッションを通して長崎を外から客観的に見る良い機会を得たことで、長崎が持つ多種多様なコンテンツや人柄の良さを含めて、良いところも悪いところも理解することができて、長崎が改めて好きになりました。
上海出向を終え、長崎に戻ってくると「長崎の人は保守的だ」などというネガティブな意見が多いことに気づきました。個人的には長崎県民は保守的というより、地元のつながりを大切にする人が多いだけという印象ですが、もし本当に保守的であるのならば、それをマイナスと捉えるのではなく長崎の「個性」として捉え、それを受け入れた上で様々な施策を行なっていくべきだと思いました。長崎らしさを保ったまま長崎の街が良くなってきて今の長崎がある。人口減も産業の転換もなんのその。長崎の人のメンタリティを変えようとしたら、人を入れ替えるしか方法がないわけですが、そんなことは不可能。長崎は長崎にあった方法でやればよい。
長崎は出島があった頃から外部の人の力を借りて発展してきました。それが長崎のアイデンティティだと思います。今、多くの方々が長崎に注目してくれています。このチャンスを生かすも殺すも長崎人次第です。長崎の個性を活かしつつ新しいことに取り組んでいく。そうすると「なんだかんだ言っても長崎って残ってるよね。」と言われる日が来るだろうと確信しています。
NFECは、2019年10月にふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の寄附講座として長崎大学研究開発機構内に作られました。活動内容は「次世代のアントレプレナー人材の育成を目指した教育プログラムと履修証明プログラムの提供」「研究者向け大学発ベンチャー創出に向けたインキュベーションプログラム」です。
アントレプレナーシップは一般的に「起業家精神」と言われますが、コロナのような予期せぬ社会変化や不確実な状況に直面しても、それをチャンスと捉えて、失敗を恐れずに新しい価値の創造に向けて行動できるマインドセットと捉えています。
起業にとどまらず、就職を考えている人や新たにプロジェクトを形成したい、チャレンジする力をつけたい、自立心をもってキャリアを開拓したい学生や社会人もNFECでは幅広く支援していきます。
長崎大学は、優秀で胸に熱いものを秘めた学生が多い印象です。
2020年は、特に大学一年生などはコロナで不安な一年間を送ってきたと思いますが、そんな中、NFECの教育プログラムで多種多彩な起業家の話を聞いて「失敗してもそれにくじけない姿勢に刺激を受け、前向きにチャレンジしていこう」と感じてくれた学生も多くいたようです。
また、2020年12月に、NFEC内に長崎オープンイノベーション拠点のラウンジとして「NOVE」をオープンしました。このラウンジは、学生と社会人や研究者が交流したり、プロジェクトを形成したりできるスペースのことです。この「NOVE」はコンセプト、デザインの形成から施工そして運営に至るまで積極的に学生が関わって構築されたラウンジです。
今後はこの「NOVE」で学生が団体を立ち上げたりプロジェクトを構築したりしていく予定です。彼らには、自分のやりたいことをやろうというエネルギーを強く感じられます。コロナでやりたいことをやれない現状に、ラウンジの構築や運営というキッカケが学生の心に火をつけたような印象もあります。
長崎大学には、前向きでポテンシャルが高い学生たちがたくさんいます。自分の足でアントレプレナーシップセンターに相談に来てくれる学生もたくさんいます。当初は「おとなしい学生が多いのかな?」と思っていましたが、全くそんなことはありませんでした。長崎大学の学生には期待しかもっていません!
長崎大学には、医・歯・薬学部や工学、水産、情報データ科学部など多種多彩な学部があります。そういった各学部の研究者の皆様から技術シーズを提供頂き、NFECの教育プログラム受講生や研究室所属の学生等からなるチームにより技術シーズの評価を行い、評価レポート結果基づいて事業化検討対象の技術シーズを選定し、当該技術シーズのビジネスモデル開発を実施するインキュベーションプログラムを展開しています。NFECでは、このプログラムを通して長崎大学発ベンチャーの創出を行っていきます。
長崎大学の研究シーズは、医歯薬系が強い印象です。熱帯学研究所では、エボラ出血熱やCOVID-19の研究をしています。もちろん、工学系やIT系、水産系など特色のある研究シーズも沢山あります。
さらに、長崎大学の計画で「BSL(バイオセーフティレベル)4」の研究施設ができます。日本では埼玉と長崎にしかなく、例えばエボラウイルス、マールブルグウイルス、 天然痘ウイルスなどの感染能力が高く、かつ有効な治療、予防法がない病原体にも対応できる安全性を備えた研究施設です。
これらを含めた多種多様で特色のある研究シーズをインキュベーションプログラムの中で発掘してFFGと長崎大学が協力しながら新産業の創出につなげていこうと思っています。
オープンイノベーションに関しては、長崎の中にスタートアップ企業や支援組織が徐々に増え、オフィスなどの拠点ができ始めています。NFECでは、その企業や拠点を繋いで、大学・自治体・経済界をまきこんだ連携を促す役割を担っていきたいと思っています。
そこには、エコシステムだけでなく、実際にスタートアップを立ち上げるプレイヤーも必要です。ラウンジでの活動や教育プログラムを通して大学生のアントレプレナーシップを育んでいくのが私たちの使命です。
長崎は、「出島」があったことにも象徴されるように、新しい思想、異なる文化を受け入れ、新しい事業や文化を創出し、外部と交流し新しいものを生み出すイノベーションを起こすポテンシャルがある地です。それが他力本願と言われる理由かもしれませんが、この個性を活かして「世界に誇れる新産業の創出」を行っていきます。